「幸せになりたい」
誰もがそう思うのではないでしょうか。
しかし、幸せとはいったいどういう状態をいうのでしょうか。
改めて聞かれるとすぐには応えられない人が多いと思います。
ここでは「幸せ」とは、あるいは「幸せな状態」とは何かを考えてみたいと思います。
目次
お金をはじめとする地位財を軽視して、本当にいいのか
複数の辞書を見ても、なかなかしっくりくる定義が見つかりません。
辞書の中で、比較的身近に書かれているのは下記の解説です。
【幸せ・仕合せ・倖せ】
goo辞書より一部抜粋
1 運がよいこと。また、そのさま。幸福。幸運。「思わぬ幸せが舞い込む」
2 その人にとって望ましいこと。不満がないこと。また、そのさま。幸福。幸い。
「幸せな家庭」「末永くお幸せにお暮らしください」
3 めぐり合わせ。運命。「―が悪い」
「幸せ」で辞書を引いても、なかなかしっくりした定義がありませんので、「幸福」で探してみると、
【幸福】
大辞林辞書より一部抜粋
不自由や不満もなく,心が満ち足りている・こと(さま)。しあわせ
幸福となると、心が満ち足りているといった表現が出てきます。
いずれにしても、複数の辞書の解説を見てもよくわかりません。
一方、誰もが、「幸せになりたい」と思っていることを否定する人はいないのではないでしょうか?そうです。私も含めて人は、「幸せになりたい」と、考えて日々を送っているのです。
しかし、「幸せになりたい」と考えていても、幸せとは何かが漠然としていたのでは、幸せに近づくことはできません。
哲学者、心理学者、実務家が、「幸せ」について様々な角度や考え方から述べていますが、多少、こうした先人・偉人の実体験・調査結果や考え方を参考にしながらも、少し身近なことに置き換えて整理してお伝えしたいと思います。
まず、結論から書きます。私が考える、「幸せ」「幸せな状態」とは、下記の2つに集約されます。
- 幸せを感じ続ける心の状態
- 追い求めていることに向かっている過程
そして、前提として重要なことは、幸せになる上での要素を軽視せず、目的と手段を間違えないことだと思います。
上記の「幸せと幸せな状態と、その前提」について、考えてみたいと思います。
1.ポジティブ心理学者が力説する非地位財の重要性
ポジティブ心理学は、1998年当時、米国心理学会会長であったペンシルベニア大学心理学部教授のマーティン・E・P・セリグマン博士が学会を創設。その後、セリグマン博士と共に発起人として関わった米国を中心とする第一線の心理学者たちにより、研究が進められています。ポジティブ心理学とは、「一人ひとりの人生や、属する組織や社会のあり方が、本来あるべき正しい方向に向かう状態に注目し、そのような状態を構成する諸要素について科学的に検証・実証を試みる心理学の一領域」と定義されています。
ポジティブ心理学の分野で、注目されている人物の一人といわれているソニア・リュボミアスキー氏の著書で、世界的なベストセラー、日本で翻訳本が出ている「幸せがずっと続く12の行動習慣」では、何千人もの人々を相手にした研究結果に基づく、科学的に幸福な状態になれる方法「幸福度の高め方」が紹介しています。
人は、
・美しくなりたい
・お金をほしい
・高級車に乗りたい
・有名になりたい 等々
を幸せになるために追い続けます。
実際は、私も定期的に著書を出していて出版社の方とも情報交換をしますが、テッパンと言われる本のテーマは、美容、お金のジャンルは、出版不況と言われる今でもコンスタントに売れるそうです。多くの人が、少しでも幸福になるために、美、お金、名声、を手に入れたいと意識するしないに関わらず、求めていることがわかります。
ところが、リュボミアスキー氏は、「これらは私たちをもっと幸せにする項目ではない」と断言しています。むしろ、美、お金、物、名声、などを始めとする地位財は、短期間のささやかな幸せを得られるにすぎず、長期間にわたって大きな幸せを得ることができないと、ポジティブ心理学を研究する学者たちは力説してます。私たちの幸福を決定する3つの要素が示しています。
さらに、ソニア・リュボミアスキー氏の調査結果から、私たちの幸福感に影響を与える3つの要因であるとしています。
つまり、環境要因は、わずか10%であり、遺伝要因は50%であるが変えられないとし、40%である行動に焦点を当てることが重要であとして、12の行動習慣を提案しています。
この点は、日本の研究者でも同じ見地をとっています。例えば、幸福学 前野 隆司慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科教授らの研究においても、地位財による幸せは、長続きしないとし、非地位財による幸せが長続きして、幸せの4つの因子を導出したと複数の著書で紹介しています。
2.幸福に与える要因は様々
一方、人を大切にする経営学会坂本光司学会長が座長になり、同学会と株式会社イマージョンの共同研究により、3000人のモニター調査を行い、「回帰モデル」と媒介モデル(パス解析)」による分析を行いました。社員幸福度調査の精度を高めるために行ったもので変えられない遺伝要因は外していますが、非地位財の代表である経済要因も含めて幸福に影響を与える要因を間接・直接で下記のような分析しました。
心理要因だけでなく、健康要因、(職場ストレス要因)、経済要因、家族要因、職場環境要因、組織風土要因で、幸福度に関わる要因は下記の通りでした。
つまり、心理的な要因は、直接効果モデルBにおいて、従業員幸福度では他の要因に比べて低く(18.6%)、プライベートも含めた人生幸福度においては、さすがに心理的要因は直接効果モデルAにおいては最も高く(36.8%)ですが、職場環境要因(32.3%)が次に高く、経済要因(19.1%)においても、20%弱と決して低い数値ではない結果になりました。
もちろん、ポジティブ心理学者がいうように、この調査では、幸せが長続きするかどうかはわかりませんが、瞬間的な幸福度であったとしても、経済要因も幸福に影響があることがわかります。
3.経済要因は、幸福度を高める要因として大切
経済要因については、幸福度ではありませんが、複数の総合主観満足度についての調査において、ある一定までの報酬により満足度が高まるといった結果になっています。
例えば、2019年5月に内閣府が発表した調査結果では、世帯年収が「2000 万円~3000 万円」までは年収の上昇に応じて総合主観満足度が高まるが、ここで頭打ちし、それ以上の年収があっても、総合主観満足度はゆるやかに逓減しています。しかし、頭打ちになるとしても、年収が「300 万円~500万円」であると回答する所得層をピークとする人口構造となっていることからすれば、ほとんどの国民にとって、所得が増えることが総合的な満足度向上に繋がることがわかります。
世帯年収別の総合主観満足度
前述の学会とイマージョンの共同研究においては、総合主観幸福度で測定しましたが、内閣府の総合主観満足度と同様の結果が出ています。
ちなみに、リュボミアスキー氏は、792人の富裕層を調査した結果、「富があってもより幸せになることはなかった」と半数以上の人が証言しています。そして資産が1000万ドル以上ある人の3分の1が、「お金は問題を解決するよりも問題をもたらすものだ」と答えています。しかし、こうした主張を鵜呑みにするのはどうでしょうか?
1000万ドルとは、1ドル100円と仮定して10億円以上の資産がある、ほんの一握りの人の話なのです。
印象に残った実務家のお話をご紹介します。日本でいちばん大切にしたい会社大賞受賞企業である新潟にある石油ファンヒーターのトップ企業、ダイニチ工業株式会社 吉井久夫代表取締役社長は、次のように話されました。
「65歳になって、自分自身が年金を受け取った時、これでは、社員の生活は厳しいと思いました。長年、社員が困っていくこと聞いてきて、その多くがお金で解決できると感じました。」
吉井社長は、こうした気づきから65歳を過ぎた社員が困らないような仕組みを構築していったのです。
京セラの創業者である稲盛和男氏が制定した経営理念は、
「全従業員の物心両面の幸福を追求。」
ですが、やはり、相関関係も因果関係どちらの面の豊かさも相互に影響しあっていると考えていたからだと思います。
さらに、禅の考え方からも、経済要因についても重要であることが説明できます。
幸せを感じ続ける心の状態
過去は変えられません。未来は幻でわかりません。「今を切に生きる」は、禅の教えですが、人生は、確かに、たとえ、1時間前であったとしても、それは過去の話です。将来についても幸福な状態でいられるかどうかについても何の補償もありません。ただ一つ言えることは、「今、ここ」の連続が人生そのものであり、幸福と感じる時間が長ければ長い程、人生全体でみれば「幸福であった」と言えるのではないでしょうか。
仮に、ポジティブ心理学の学者が言うように、地位財の幸せは長続きせず、際限がないといった性質があるといっても、経済要因によって幸せが続くことは重要なのだと思います。
実現したいことを追い求めている過程
また、家を建てよう、車を買おう、海外旅行がしたい、その他、様々な実現したいことがある場合、その過程が楽しいといったことを感じたことは誰でも、実感する経験があるのではないでしょうか?
夢のマイホーム、一戸建てにしようか?マンションにしようか?住ならどこがいいだろうか?と、ネットで調べたり、実際に、住みたいと思う街に行ってみたり・・は、本当にワクワクします。
つまり、何か目指すものがあって、そこにたどり着いたら何かいいことが待っているように感じるけれど、実際はたどり着いた先ではなく、そこにたどり着くまでが楽しく幸せを感じるのです。
4.手段と目的を間違えない
経済要因が幸福を高める要素であったとしても、お金を得ることが目的になってしまっては本末転倒です。
私が10代の頃読んで、いまだに記憶に刻まれているの本は、「パパラギ」です。
南海の酋長ツイアビが、はじめてパパラギ(=白人)たちの「文明社会」に触れた驚きを、島の人々に語って聞かせる演説集です。お金、時間、都会、機械、情報、物欲……について、痛烈に皮肉った1920年初版の名著です。
著書の中に書かれているのは、以下のような内容で、一部、象徴的な文章を抜粋します。
丸い金属と重たい紙、彼らがお金と呼んでいる、これが白人たちの本当の神様だ。
のべつお金ばかり数えているせいだ。お金のために、喜びを捧げてしまった人がたくさんいる。
笑いも名誉も良心も幸せも、それどころか妻や子までもお金のために捧げてしまった人がたくさんいる。ほとんどすべての人が、そのために自分の健康さえ捧げている。
丸い金属と重たい紙。
彼らは折りたたんだ固い皮のあいだにお金をはさみ、腰布の中に入れて持ち運ぶ。
夜は、盗まれないように枕の下に置いて寝る。
毎日毎時、あらゆる瞬間に、彼らはお金のことを考えている。
お金で人は楽しくなったり、幸せになったりすることはない。
それどころか、人の心を、人間のすべてを、悪しきいざこざの中へ引き込んでしまうということを。そしてお金は、ひとりの人間も本当に救うことはできない。
ひとりの人間も、楽しく、強く、幸せにすることはできないのだということを。
経済要因は、幸せを持続させる上で重要ですが、酋長ツイアビが演説で語ったように、多くのお金を得るために、健康をはじめとする幸せを感じる要因をも失ってしまうことに陥ってしまっては、幸せになるどころか、不幸せになってしまいます。
私なりの結論を整理すると以下の通りです。
ポイント
- 非地位財だけでなく、地位財も、人の幸せに影響する
- 幸せは、実現したい状態を追い求めている過程でもある。
- 幸せになるために、地位財も重要であるが、地位財を得ることが目的になると不幸せになってしまう。
藤井正隆
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