幸福度を高める

組織に「幸せ」をもたらす6つの資本

組織に「幸せ」をもたらす資本はお金だけではない

作家 橘 玲氏は、『幸福の「資本」論』の中で、幸福になるための3つの資本インフラを提案しました。

出典:橘 玲著 幸福の「資本」論(ダイヤモンド社)

 

金融資産

「経済的独立」に必要なインフラです。財政基盤があれば、お金に追われるといったことが無くなり、職業他、様々な選択ができます。報酬は、ある一定以上得ると頭打ちになることは、複数の調査で明らかになっています。

さらに、ピケティは、資本が資本を生む割合である資本収益率と、労働が収益を生む経済成長率との関係について着目し、様々な経済活動の結果である数値をかき集めて分析し、「資本主義社会において資本収益率は経済成長率より常に大きい」という経験的事実を引き出しています。橘氏は、金融資産を蓄積することにより、自由が手に入り、結果として幸福になると言います。

人的資本

教育や訓練の経済的意義や賃金格差 を説明する際に広く用いられる経済学全体に関わる基礎概念です。人的資本は、人間を工場や機械のように生産の為に必要な資本という視点から見て、教育という投資をする事によってその資本の価値を高めていくという考え方です。

しかし、人間は、工場や機械といった物とは異なり、「やりがい」や「生きがい」を持つことで、「自己実現」という幸福の条件になります。

社会資本

経済学でいう社会資本は、道路や橋といったことをいいますが、社会学でいう社会資本は、社会関係資本で、人的なネットワークのことです。

社会資本は、人が幸福を考える際に最も重要で、社会的な動物である人は、共同体の仲間から評価されたときに幸福感を感じるように進化の過程でプログラムされていると橘氏は言います。

お金がなくても、仕事にやりがいを感じなくても、愛する人がいれば幸福だと思う人もいます。社会資本には、「強いつながり」と「弱いつながり」もあります。家族や会社といった「強いつながり」は、その関係性から幸福を生むこともありますが、逆に、強いつながりであるがゆえに、不調和を生み出してしまうこともあります。

「弱いつながり」からは愛や友情のような強烈な幸福感は得られませんが、面倒なことはありません。時々何かのコミュニティーで一緒になる、たまたまスポーツ観戦に来ていて応援しているチームが勝ってハイタッチをする、SNS上でのやりとりなども、気軽にできます。性格により、大小はありますが、こうした「弱いつながり」においても、人は幸福を感じることになります。

 

幸福の製造ボックス

橘氏は、3つの資本=資産が幸福の重要なインフラであるとし、人は、金融資本、人的資本、社会資本を「市場」で運用し、そこから富を得るとしています。そして、人生設計は、金融資産、人的資産、社会資産から得られた富を資本に加え、幸福のインフラを大きく育てていくことが重要であるとしています。

また、橘氏は、金融資産、人的資本、社会資本を「幸福の製造ボックス」投入することで「幸福」に変換されるとしています。

出典:『幸福の「資本」論』(橘玲著・ダイヤモンド社)

金融資産、人的資本、社会資本を蓄積すれば、幸せが増大して豊かな人生となり、逆に、3つの資本のすべてを失ってしまえば、幸福とはほど遠い人生を送るしかなくなってしまうことになります。

つまり、下記の二つが、人生において幸福を最大化する方法だとしています。

  1. 幸福の製造装置へのインプットをできるだけ多くする。
  2. 幸福の製造装置の「変換効率」をできるだけ高くする。

 

組織に「幸せ」をもたらす6つの資本

人の幸福に焦点を当てた「幸福」の資本論を、組織に当てはめてみたいと思います。 組織に「幸せ」をもたらすのは6つの資本です。

  1. 金融資本   ファイナンシャルキャピタル
  2. 人的資本   ヒューマンキャピタル
  3. 社会関係資本 ソーシャルキャピタル
  4. 顧客資本   カスタマーキャピタル
  5. 知的資本   インテレクチュアルキャピタル
  6. 共感資本   エンパティーキャピタル

 

6つの資本は、それぞれ性質は異なりますが、会社組織と所属する社員に対して、大きな資産を生み出すことができます。

まずは、6つの資本がどのような資産を生み出すのかを確認してみたいと思います。

 

金融資本 ファイナンシャルキャピタル

企業で言えば、自己資本。財政基盤があれば、リーマンショック、コロナショックといった自社だけでは何ともし難いマイナス要因が発生したとしても、余裕を持って対処することができます。

上記は、財務省「法人企業統計調査年報」の金融機関からの貸出比率ですが、明らかに、大企業に比べて中小企業は、銀行などからの負債に頼っていることがわかります。

また、中小企業は、大企業に比べて、資産・担保なども乏しいことから、金融機関の状況により、「貸しはがし」といったことが起きかねません。

"晴れた日に傘を貸し、雨の日に傘をとりあげる。”

銀行の冷たさを皮肉る言葉ですが、実際、貸しはがしを経験した経営者は、腹の底から実感していることでしょう。逆に、自己資本比率が高ければ、金融機関の影響を受けることなく余裕を持って対応できます。まさに、個人と同じで会社としての自由を獲得することができます。

資金ショートし倒産してしまえば、社員は露頭に迷い不幸になってしまいます。
一方、お金に余裕があれば、社員に多くの報酬を払い、福利厚生も充実させることができます。さらに、会社しても、新しい投資ができることで様々な機会が広がっていき、会社として成長することができます。

 

人的資本 ヒューマンキャピタル

優秀な社員が、モチベーション高く、一生懸命働けば、会社としても新しい価値を生み出します。逆に、合わない社員が、モチベーション低く、嫌々仕事をしていて会社の業績が良くなるわけもありません。そうした意味で、まさに、人は、重要な資本そのものであり、他の資本を生み出す上でも重要です。

会社のビジョンを考える際、次の観点が必要となります。

  1. トップ及び社員がなりたい組織の姿は何か?
  2. 環境変化から何をすべきであるか?
  3. 組織の強みから何ができるか?

の3点です。

次に、組織に所属する社員が自身のビジョンを考える際には、

  1. 自分が情熱を感じること
  2. 会社からの期待と
  3. 自分の強みが生かせること

の3点です。

そして、両方が交わったところが、組織と個人、それぞれのスィートスポットになります。2つのスィートスポットを考えることで、組織の効率と社員自身の自己実現の両方が、バランスをとれていきます。

社員の幸せの実現は、会社にとっての目的そのものです。その社員が、会社の方針とベクトルを同じにし、自己実現をしていくことは、社員と会社の双方にとって、最も重要な資本といっても過言ではありません。まさに、会社も社員も自己実現して幸せになります。

 

社会関係資本 ソーシャルキャピタル

坂本光司人を大切にする経営学会学会長・千葉商科大学大学院客員教授は、通常、言われているヒト・モノ・カネに加えて、第4の資源として社会資本、平たく言えば人脈があると言いました。

さらに、坂本教授は、次のように言っています。

「ヒト・モノ・カネにおいて、大企業に比べて劣っている中小企業が企業経営上、重要なことは、外部資源の内部資源化である。自社以外の外にある経営資源を、あたかも内部資源のように使っていくことが重要である」

経営トップをはじめとする社員の多くが、外部に良質な人的ネットワークを持っている会社は、コラボにより新しい価値が適用できます。

1995年にインターネットが世に出たこともあり、ネットワーク理論が盛んに研究され、多くの論文も出ました。そして、調査結果によれば、社内の「強いつながり」よりも、社外の「弱いつながり」の中で、多くのイノベーションが生まれやすくなるといったことが発表されています。

この調査結果は、容易に想像もできます。「弱いつながり」では、お互いの経験が異なるために、違った観点でものを考える人同士が情報交換をすることになります。当然、毎日、同じ社内で検討しているよりも多面的に考えることができるため、新しい発見に繋がる確率が高くなるのは当然のことです。

また、社会関係資本が充実すると、個人と同様に、その関わりの中で、幸せを感じることは、会社でも同じです。

 

顧客資本 カスタマーキャピタル

当社にも配置薬があります。私が田舎の実家にいたとき子供の頃には、自宅にも配置薬がありました。富山の薬売りといった販売方法は独特です。富山の薬売りとは、薬の行商人のことです。江戸中期に始まったといわれ、藩の保護・統制を受けて発展しました。

富山から薬を背中に担いで全国各地の得意先へ直接訪問し、薬を置き、年に1~2度訪問して使用分の代価を清算し薬を補充ししていったのです。基本的には、先義後利の考え方で、商品知識に精通した行商人が懇切丁寧に薬の説明をし、働き方や体質など顧客一人ひとりの事情に合わせて配置箱に入れる薬を考えます。

一方お客様の方は、一度試して効き目があったらまた今度も飲んでみようと考えます。こうした定期的に続くコミュニケーションの連鎖のなかで信用が積み重ねられていくのが富山の薬売りのシステムです。そうした中で顧客の信用を積み重ねリピーターを獲得する営業ツールとして発展を遂げたのが、現代でいえば顧客管理台帳の役割を果たす「懸場帳」です。

「鎖国の江戸時代で富山の薬売りは、富山藩の『反魂丹役所』から通行手形を発行してもらって他国で商売をしていました。その通行手形発行の条件となったのが懸場帳でした。どの家庭にどの薬がどれだけ置かれていて、家族構成や家族の持病は何かなど、その家庭の顧客情報が事細かに記入されていました。

一般社団 配置薬協会掲載 ホームケージより引用

実際に、懸場帳は売薬行商の基礎財産とされ,売買や賃貸、質入の対象にさえなっていました。つまり懸場帳は、無形の経済的利益、財産価値を有するのれん価値として認められていたのです。そのため、廃業するときには資産として売却することが可能で、新規参入者も懸場帳を購入すれば既存の顧客網をそのまま引き継ぐところから営業を始めることもできたのです。

私が起業した際、マーケティングの大御所である慶応大学大学院名誉教授嶋口 充輝氏は、「お客様があれば、なんとかなる」と、お客様の重要性を教えてくれました。まさに、本質を突いたアドバイスです。

良質なお客様が数多くある、つまり、顧客資本が充実していれば会社は安定します。会社が倒産に危機になるのは、顧客がいなくなる、増えないからです。会社が安定的に企業活動を継続させることができることは、まさに、幸せが継続する担保と言えます。

 

知的資本 インテレクチュアルキャピタル

知的資本とは、企業価値に転換し得る知的な要素のことです。企業価値を高めるための知識創造活動は、知価社会の中で非常に重要となります。

知的資本により生み出される企業の無形の価値を具体的に挙げてみましょう。
知的所有権は、法律によって成立要件と保護範囲が明確化され、一定の要件を満たすことによって権利があるものです。代表的なものとして特許権や商標権、著作権などが挙げられます。知的所有権は法律が認めたものです。(秘密にしておきたいノウハウはあえて特許を取得しない選択をする企業もある。例)コカ・コーラ製法等)

知的所有権に限らず、会社には様々な知的資本があります。

  1. 会社が保有する技術・ノウハウ
  2. 技術者・技能者の知的創造の能力
  3. 課題解決型の商品・サービスの提供プロセス 等々

自社の知的資本は、金融といった有形資産は、もちろん、人財、新技術、組織力、顧客創造、ブランド形成といった無形資産をつくることに繋がります。

 

共感資本 エンパティーキャピタル

人・モノ・金・情報ではなく、共感も重要な資本です。成熟社会では、差異化が難しくなります。いくらお客様のニーズに合った商品サービスを提供しても、やがて、メーカーが顧客の望んでいる以上の品質や性能の製品を開発して市場に出すといったオーバーシューティング状態になります。

モノやサービスが飽和すれば、企業そのものや、企業が提供する商品サービスがファンになることは重要です。ファンのベースになるのが共感です。クラウドファンディングの流行やコミュニティー経済の再評価といったように、「共感」はいま社会を動かす大きな力となってきています。AI(人工知能)が普及した後の社会において、人間が保有する他者へ共感する能力がますます重要になります。

そして、「共感」は、心的な繋がりに繋がります。また、「共感」を得るような活動を行う会社に所属する社員にとって、幸せに繋がります。

 

経営のスタイルやビジネスモデルにより、当然、それぞれの資本と資産のウエイトは、異なります。しかし、6つある内の1つや2つでは、経営は不安定になります。最低は、2本以上、できれば、4本位も資本が充実しており、且つ、その運用を上手くやってるところは、組織全体として、社員を幸せにする土壌ができます。

「ない袖は振れない」「貧すれば鈍する」などといますが、企業経営では、普段から、資本と資産の蓄積が重要なことは言うまでもあません。

組織も社員も幸せにするには、まさに、数多くの資本の蓄積と資産の効果的な運用は、
不可欠だと思います。

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藤井正隆

代表取締役社長株式会社イマージョン
大手組織開発コンサルティング会社で、営業責任者及び総研チームを経て、マネージングコーディネーターコンサルタントとして、「事業戦略」、「マーケティング戦略」、「組織変革」のコンサルテーション及びマネジメント研修を担当。 徹底した現場主義で、優良企業年間120社以上を視察訪問研究を継続中。千葉商科大学大学院商学研究科客員教授

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